ここ十年で一番大きな出来事は、なんといっても2020年に始まったコロナ禍であろう。この年の春、世の中に不穏な空気が充満し、これは、<蟄居>するしかないのかと思いはじめた、そのタイミングで娘のところに不幸があった。しかも、娘は妊娠中。そうなると、ジージが頑張るしかない。ここから、緊急事態宣言が発出され、不要不急の外出はお控えくださいとのアナウンスの中、僕の千葉通いが始まる。新幹線のひとつの車両に乗客は僕ひとりというシュールな体験をしたのもこの時だ。9月に生まれた3人目の孫が満3歳になるまでの3年間、千葉通いはほぼ毎月続いた。人生で一番動いた3年間だった。
コロナ禍によって明らかになったのは、どれだけ社会が「医療化」されているかということだ。ワクチン、マスク、消毒は言うに及ばず、人と人との距離、クシャミのしかた、トイレの流し方に至るまで、根拠があるようなないような言説が拡散され、社会生活を送る上での規範とされた。年寄りたちの過度に医療化された姿は醜悪でさえあった。インテリたちの振る舞いも同様で、気骨がありそうな知識人たちの腰抜けぶりがあぶり出された。反ワクとヘイトが奇妙なかたちで結びついた政党が姿を現してきたのもこの時期だ。
日本で暮らしていると、一生に一度くらい大きな地震と遭遇する可能性は高い。東日本大震災は経験したとはいえ、被災したわけではない。戦争の匂いがかすかに残っている時代に生まれ、経済高度成長期の中で成長し、バブルが弾けたあたりから、半出家者のような生活を送ってきた。父や祖父の世代がくぐり抜けたてきた戦争のあった時代を幸いなことに知らないままここまでたどり着いたけれど、さて、どうなる。