あいにく仏教に関してもコンピュータに関しても中途半端な知識しかない。
ただ、ものごとがどのように伝わっていくのかということには興味がある。
コンピュータがある日、悟りを開く。
たしかに、24時間稼働し続けることを運命ずけられた金融機関のコンピュータシステム(勘定系と呼ぶらしい)を止めることなく自らをアップデートしていく様はいきもの的である。それを手当していくのはコンピュータ産業に関わるエンジニアたちだが、人間が間違いを犯すことは不可避だから、システムの中にバグが紛れ込むことも避けられないし、そのバグもいつ顕在化するかわからないし、そのバグによって、あるいは、機械的な衝撃によってコンピュータが悟りを開く可能性だってある。この物語は、このように始まる。
ここからは、仏教二千年の歴史をなぞるように2021年にブッダとなったブッダチャットポッド以降の歴史が進んでゆく。ブッダの言葉が文字となり、そこから教団が生まれ、分派し、世俗化され、世界の隅々に伝播していく。仏教史を学んでいるような、コンピュータ史を学んでいるような、不思議な小説である。これは快作だ。