父から受け継いだものを手がかりに、曽祖父角三郎の素性を探ろうとしているのだが、ようとして進まない。家族の伝承として、「朝鮮で犬養毅の身辺警護に当たった」というのがある。等持院稽古場に掛かっている犬養さんの揮毫は、曽祖父に贈られたものであることは間違いがない。どういうかたちで犬養さんと出会ったのかは不明。同郷ということで可愛がってもらった可能性はあるだろう。承政院日記という李氏朝鮮時代の役所の記録に曽祖父の名前を見つけて驚いた。「慶尚北道警察部勤務・警部」とある。1910年、つまり、李氏朝鮮が消滅し日韓併合が行われた年だ。日本帝国主義の先兵として朝鮮半島に居たらしい。しかも警官として。この事実を知るだけで頭ががくらくらしてくる。その後、警察官として国内を転々としたらしい。国立国会図書館のデータベースの中にあった大正6年(1917)の「警察新聞」に深川洲崎警察署長の肩書きでインタビューに答えている。もうとつの手がかりが本多日生の手による「ご本尊」。これも宛名が角南になっている。日蓮宗系の御本尊は真ん中に「南無妙法蓮華経」と大きく書かれ、それを取り囲むように、ありとあらゆる神仏の名前が書かれているのだけれど、ひとつ完成させるのにえらく労力がかかりそうなのだ。こんなもの偉い坊さんが、一介の信徒にわざわざ書いて渡すか? どう考えても、角三郎さん、日蓮主義に深く関わっていたとしか思えない。おまけに、まったくの偶然なのだけれど、亡くなった父が最晩年を過ごしたのが国柱会の運営する老人ホームだったりする。五年前にこれにつながることを「日蓮宗のことなど」と題して少し書いているのだけど、調査はなかなか進展してこなかった。ここにきてやっと手がかりになりそうな本と出会った。昨年出版された『日蓮主義とはなんだったのか』(大谷栄一著 講談社)。今年の読書はここから始めます。600頁に及ぶ大著。
【追記1】近代の人名はアジ歴で検索するのが一般的です、と知人に教えられました。なるほど。
【追記2】第五章まで読み進んできました。(1/14)「日蓮主義はどのように天皇主義と接続したのか?」というのがずっと疑問としてあったのだけれど、セイロンの仏教復興運動家であるダルマパーラという僧が1902年に来日した折、田中智学と面会し、「セイロンの歴史の言い伝えとして、約2500年前、インド王族の高級貴族五百名が海を越えてどこかに行った」という話を伝えたとある。智学は、この貴族を神武天皇と解釈し、みずからの国体論に取り込んだ。(p.159)
【追記3】手元においてじっくり読むべく、MARUZENにて新刊購入(1/17)