前掲したレシピブックに載せてもらったものの文章部分です。
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京都に舞い戻ってきて三年と少々。豆腐屋で豆腐を買ってきて食べるという生活が当たり前になった。それまで、豆腐にしても油揚にしても、スーパーの棚に並んでいるものを買ってくることしかしてなかったから、街の豆腐屋で普通に木綿豆腐を買ってきてたべるという生活が新鮮だった。普通の豆腐屋で普通の値段の豆腐を普通に食べられる普通の生活である。この普通がありがたい。いま通っているのは、とようけ屋山本という、一応老舗と呼ばれているお店なのだけれど、ここもほとんど製造販売所という体で、形がちょっとくずれた豆腐を値引きしてくれたり、いたく庶民的なお店である。野菜も同様で、季節を問わず、スーパーに並んでいる多種多様な野菜の中から適当に選んで買ってくることが常だったけれど、佐伯さんという農家・販売所ーといっても自宅なのだがーで買いはじめて、野菜の旬というものを知るようになった。無農薬低農薬で、しかも旬のものしか並んでないから、とにかく美味しい。菜食の彼女の影響もあって豆を食べる機会が増えた。豆は楽天堂さんという、なぜか旧知の豆屋さんで買ってくる。豆料理というと、チリコンカンは昔から自分でもつくっていたが、豆をサラダに使うとか、あまり考えたこともなかった。大豆が美味しいなんて、これまで思ったこともなかったが、煮た大豆とお米を一緒に炊いた豆ご飯は、いまや主食と化している。
さて、とようけ屋山本の木綿豆腐と佐伯さんの野菜と楽天堂さんで買ってきた豆を使ってサラダを作るというのが、今回の宿題に対する答案なのだが、はたしてこれをDIYと呼べるのだろうか。自分で作ったものは何もない。材料を買ってきて、それを並べるだけである。第一、火も使わないから、料理と呼べるかどうかさえあやしい。さて、ここからがレシピ。
野菜は洗ってちぎり、皿に並べる。レタス、ほうれん草ー柔らかくていつも生で食べてしまう、赤カブといったところ。木綿豆腐は半丁分くらいをゆっくり手のひらでつぶしながら野菜の上に置いていく。そのわきに、煮豆ー大豆であったりひよこ豆であったりーを並べる。その上に、自家製ヨーグルトー自家製といっても、コープで買ってきたカスピ海ヨーグルトを種にして、牛乳と豆乳を半々くらいの割合で混ぜ二日ほど放置しただけのものーをかける。あとは適当に塩胡椒をふりかけ、さらにオリーブオイルとお酢ーこれは一条商店街のお酢屋さんで買ってきた玉姫酢ーを廻しかける。これでサラダのできあがり。このサラダに難点があるとすれば豆乳をAmazonを通して買っているところだな。チーズを載せることもあるが、これも成城石井とかジュピターで買ってくるものだ。
これをDIYと呼ぶかどうかはさておき、自分の体を動かすことで、皿の上にサラダが出現するという意味において、ほんのすこしだけDIYにカスるのではないかと思っている。豆腐のつぶし加減とか、お酢の廻しかけ具合とか、この即興感がたのしいのです。余談ですが、このサラダは身体教育研究所で毎年旧正月のこの時期行っている「禁糖」ー砂糖類を二週間程度断つことで「度合い」に対する感受性を取り戻す試みーにふさわしいレシピでもあります。