5月は読書月間になってしまった。
5日間くらいお遍路に出かけるつもりにしていたのだが、体の方がウンと言わない。草臥れて行きたくないのではなく、もっと長い距離を歩きたいという。困った。先月、高知市内にある33番札所雪蹊寺を打ち、ここから足摺岬を目指すことになるのだが、一息で足摺岬まで歩き、さらに愛媛側にたどり着くには相当の日数が要る。区切りうち遍路にとって、どこで区切るかはなかなか難しい。中途半端なところで区切ると、往復だけに時間を取られ、先に進めない。今月は、雪蹊寺から37番札所岩本寺までの80キロを歩く計画を立てていた。であるのに、体の方は嫌だという。仕方なく計画は先送り。ぽこんと一週間の空きが生まれてしまった。稽古を入れたとしても、急に人がやってくるはずもなく、暇である。
で、今月は読書月間となった。
劇場アニメーション「犬王」誕生の巻* 松本大洋・湯浅政明 河出書房新社 2022
平家物語 犬王の巻* 古川日出男 河出書房新社 2017
映画犬王 の影響なのか、単に京都を訪れる観光客が増えている余波なのか、等持院 界隈が以前より賑わっている気がする。映画犬王 が興味深かったので、アニメの原作となった平家物語犬王の巻 を読むことにした。初めての古川日出男 。琵琶法師は滅びた平家の物語を奏で、小説家は歴史の闇に消えた犬王を甦らせる。
あなたのルーツを教えて下さい* 安田菜津紀 左右社 2022
フェンスとバリケード* 三浦英之・阿部岳 朝日新聞出版 2022
太陽の子* 三浦英之 集英社 2022
老いと踊り* 中島那奈子・外山紀久子編著 勁草書房 2019
なぜ、僕らを発見するのは「踊り」の人たちなのだろう?という問いはずっとある。踊る人たちは、文化の違いも国境も越えて、すっとここにたどり着く。もちろん、室野井洋子、 田中敏行という仲間がいたからでもある。この本は2014年に開催されたシンポジウム「老いと踊り」をベースに、その後の論考を加えた構成になっている。大野一雄の73歳デビューが与えた衝撃の大きさから、この本が始まっているといってよい。こういう立体的な言語空間の存在は貴重。と同時に論考の緻密さを求めるがあまり、身体から離れていくという矛盾とどう向き合うかが問われることになる。
記憶のつくり方* 長田弘 晶文社 1998
深呼吸の必要* 長田弘 晶文社 1984
直立二足歩行の人類史 ジェレミー・デシルヴァ 文藝春秋 2022
キューブリックの映画2001年宇宙の旅の冒頭シーンの映像は強烈だった。二本足で立つことで道具を使うことを覚え、獲物を捕らえられるようになった人類は生活圏を広げていった。そんなストーリーを刷り込まれてきた。ところが実際は、むしろ「狩られる」存在であったようで、樹上の安全地帯を生活圏とし、猛獣が昼寝する時間に樹上から降りて食料を探していたらしい。#直立二足歩行の人類史 の最初の章は、二足歩行にまつわる諸学説〜水生類人猿之説とか〜に充てられていて、それぞれ興味深い。
人類の祖先は、樹上ですでに二足歩行しており、その歩行によって平地を移動しはじめたのではないかというのが、この本で示される新視点。ゴリラやチンパンジーは人類と共通の祖先を持つが、枝分かれする前の段階ですでに二足歩行しており、ゴリラ、チンパンジーのナックルウォークは枝分かれした後で獲得されたものではないかというもの。人類の二足歩行の特徴を「膝の裏を伸ばし、腰を直立させて」と記述されると、?っと思い、それって既に西洋中心主義が混じってないか?と突っ込みたくはなる。古人類学者って世界に何人くらいいるんだろう。
歩く江戸の旅人たち2* 谷釜尋徳 晃洋書房 2023
辺境メシ* 高野秀行 文藝春秋 2018
異性装 中根千絵他 集英社インターナショナル 2023
嘘と正典* 小川哲 早川書房 2019
急に具合が悪くなる* 宮野真生子・磯野真穂 晶文社 2019
他者と生きる* 磯野真穂 集英社新書 2022