2024年1月28日日曜日

読書ノート 201401

私のものではない国で* 温又柔  中央公論社 2023

ヘルシンキ 生活の練習* 朴沙羅 筑摩書房 2021
 今年最初の一冊。図書館で予約してから手元に届くまでなんと16ヶ月。3年越しの予約。これはこれまでの最長待ち時間。図書館で本を予約するときには、所蔵冊数と予約数を見れば、大体、いつくらいに届くか見当がつけられる。半年待ちで本が届いて、一気読みして三日後に返却というパターンも多い。つまり本によって回転速度が違う。この「ヘルシンキ生活の練習」は、そういう意味で回転が超ゆっくりだった。手にとってみて合点がいった。これは手元に置いてゆっくり読みたい本だ。返却期限がきても、あと何日か延ばしたくなる気持ちもわかる。保育園に入る権利が保護者である親の労働状況に紐づけられている日本と、子どもの教育を受ける権利に紐づいているフィンランド。つまり保育園の位置付けがはなから違っている。このような社会に小さな子ども2人と一緒に分け入っていく極私的フィールドワーク。

イラク水滸伝* 高野秀行 文藝春秋 2023
 高野秀行 はどんどん「探検家」から「学者する探検家」にシフトしてきてる。もちろん褒め言葉。イラク水滸伝 は、イラク南部に広がる(年々縮小)湿地帯に入り込み、舟を作り葦の生える水路を移動し、人類最古ともいわれるシュメール文明と現代との連続性に思いを馳せる。反国家というか脱国家の民が生きてきた湿地帯のありようは、インドシナ山岳地帯のゾミア を彷彿とさせる。そういえば、この地域もまた高野の縄張りではないか。

狩りと漂泊 裸の大地* 角幡唯介 集英社 2022
 冒険家は極寒のなか、犬と共に橇を引きながらひたすら哲学する。なぜ43歳(当時)のオレはここにいるのか。哲学するとは、ひたすら言い訳を考えることなのだ。日本で待つ妻子を心に想いながら。その女々しさ(今どき、この言葉を使うと性差別的だと糾弾されるのだろうか?)が読者の母性(僕にも母性はある)に響く。