2024年6月28日金曜日

コンヴィヴィアリティのための道具

 Your夜学「からだを失くした現代人のための身体教育論」の最後にイリイチの「コンヴィヴィアリティ」という言葉が出てきて自分でも驚いた。そのくせ「コンヴィヴィアリティのための道具」(ちくま学芸文庫 2015)をまだ読んでなかったので、これはいかんだろうと本屋に走った。もともとは1989年、日本エディタースクールから出版されている。訳者の渡辺京二さん、「コンヴィヴィアル」に「自立共生的」という言葉を充てている。コンヴィヴィアルとかヴァナキュラーとか、イリイチの使う単語は日本語に置き換えづらい。

 それにしても50年たって、またイリイチかよ、という感は否めない。僕のことを「イリイチ本を訳した人」と思っている人が、たまにいて面食らうのだけれど、まったくの誤解です。1980年に野草社という出版社から「対話」という本が出て、その翻訳者の一人として僕の名前が出ていて、しかも、なぜか一番目にクレジットされていて、それがいまでも検索エンジンで引っかかってくるせいなのだけれど、大いなる誤解で、自分的には「黒歴史」。渡辺京二訳ののコンヴィヴィアリティ本のあとがきに「わけもわからない訳本をだすのはよくよく罪深い行為なのだ」と書かれてあって、思わず身をすくめた。

とはいえ、1973年以来、断続的ではあるけれどイリイチは読んできた。
これまでイリイチがどのように紹介されてきたのか、Wikipediaで著作の英語版と日本語版の発行年を調べてみた。どうやら1970年の後半あたりから注目されるようになってきたことがわかる。イリイチがメキシコのクエルナヴァカに設立したCIDOC(Centro Intercultural de Documentación)で活動していた時期(1965-76)から10年後ということになる。日本にどのような経路でイリイチの思想が入ってきたか、よくわからない。日本の知識人って、結局ただの輸入業者だから、案外、フランス経由という可能性もある。

1971 / 1985 Celebration of Awareness
1971 / 1977 Deschooling Society 脱学校化社会
1973 / 1989 Tools for Conviviality コンヴィヴィアリティのための道具
1974 / 1979 Energy and Equity エネルギーと公正
1975 / 1979 Medical Nemesis 脱病院化社会

1981 / 1982 ShadowWorks シャドウワーク
1982 / 1984 Gender  ジェンダー

僕などは、初期の著作に触れていた程度で、2000年代に入って藤原書店からイリイチの本が出版されるまでの20年間、イリイチとは疎遠だった。なので、1980年代、エコフェミ論争なんてものがあったことさえ最近になるまで知らなかった。しらなくてよかった〜。

今年の春、本棚を整理していて、もうこの先、イチイチを読むこともないだろうと、藤原書店から出ていた三冊の本も手離した。なので、え、またイリイチ、いったいこの半世紀、自分たちはなにをしていたんだろと思ってしまうのだ。